本庶佑先生のノーベル生理学・医学賞の受賞を契機として、当会にもリンパ腫の患者や家族の皆さまから免疫チェックポイント阻害剤に関するお問合せ、例えばニボルマブ(販売名:オプジーボ)やペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)に関して、ご自身や家族の治療に使えないのか、などのお問合せをいただいております。

「がん細胞が免疫にブレーキをかける仕組み」に対して働きかける免疫チェックポイント阻害剤の開発につながる本庶先生の業績は素晴らしいものであり、そのさらなる開発と治療の進歩が期待されていますが、現状では効果が期待できるがんの種類などは限られており、免疫チェックポイント阻害剤特有の副作用などもあることから、慎重に投与されるべき薬剤です。主にリンパ腫の患者や家族の皆さまを対象として、以下に一般的な情報提供をいたします。なお、本文書については伊豆津宏二先生と丸山大先生(国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科)より監修をいただきました。御礼申し上げます。

1)免疫チェックポイント阻害剤の適応について

現在(2018年10月4日時点)、リンパ腫に関連して国内で承認されている免疫チェックポイント阻害剤は、ニボルマブ(販売名:オプジーボ)やペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)であり、それぞれの適応は以下の通りです。いずれも再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫のみに対して承認されています。なお、適応があれば必ず効果があるというわけではありません。また、古典的ホジキンリンパ腫でも、初回治療の場合、化学療法または化学療法と放射線療法の併用療法により優れた治療効果が期待でき、免疫チェックポイント阻害薬が優先されることはありません。

「オプジーボ点滴静注20mg/ オプジーボ点滴静注100mg」
◯悪性黒色腫
◯切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
◯根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
◯再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫
◯再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌
◯がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の胃癌
◯がん化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫
>>添付文書:2018年8月改訂第19版(PDF)

「キイトルーダ点滴静注20mg/キイトルーダ点滴静注100mg」
◯根治切除不能な悪性黒色腫
◯PD-L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
◯再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫
◯がん化学療法後に増悪した根治切除不能な尿路上皮癌
>>添付文書:2018年4月改訂第8版(PDF)

2)免疫チェックポイント阻害剤の使用について

免疫チェックポイント阻害剤は、がんの種類によっては有効性に乏しい場合もあり、新しい作用機序の治療薬であることから、致死的又は重篤な副作用や、従来の治療薬ではみられなかった新しい副作用が生じる場合もあることもわかっています。厚生労働省などにより使用にあたってのガイドラインが出されており、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで投与することとされています。

(参考)
>>最適使用推進ガイドライン(ニボルマブ/古典的ホジキンリンパ腫)(PDF)
>>最適使用推進ガイドライン(ペムブロリズマブ/古典的ホジキンリンパ腫)(PDF)

3)免疫チェックポイント阻害剤のリンパ腫に関する臨床試験について

国内ではリンパ腫に関して現在、以下の免疫チェックポイント阻害剤に関する主な臨床試験(企業治験や多施設共同試験など)が行われています。なお、一般的に臨床試験は、従来の治療薬や治療法よりも有効であると期待される新薬や新しい治療法などについて、その有効性や安全性などを確かめることを目的として行われますが、期待された効果がみられない場合や、予期せぬ副作用が生じる場合もあります。また、臨床試験に参加するにあたっては、患者さんが参加するにあたって一定の条件(適格条件)などがあります。

なお、標準治療とは「科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療」のことであり、まずはガイドラインなどに沿った治療を検討することが推奨されます。臨床試験への参加を考慮する際には、主治医の先生ともよく話し合い、十分に納得し同意した上で、参加することをお勧めいたします。

>>再発・治療抵抗性の造血器悪性腫瘍患者を対象とする、Nivolumab単剤療法の安全性・有効性を検討する多施設共同第II相臨床試験
(対象:一定の条件を満たす再発・化学療法抵抗性又は化学療法不耐のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者)

>>再発/難治性の中枢神経系原発リンパ腫(PCNSL)又は精巣原発リンパ腫(PTL)を対象としたニボルマブの単群,2コホート,非盲検非対照第2相試験
(対象:一定の条件を満たす再発/難治性の中枢神経系原発リンパ腫又は精巣原発リンパ腫)

>>難治小児悪性固形腫瘍およびホジキンリンパ腫患者を対象としたニボルマブの医師主導第Ⅰ相試験
(対象:一定の条件を満たす難治小児悪性固形腫瘍およびホジキンリンパ腫)

>>再発又は難治性の成人T細胞白血病・リンパ腫に対するニボルマブの第Ⅱ相医師主導治験
(対象:一定の条件を満たす再発又は難治性の成人T細胞白血病・リンパ腫)

(※)上記の臨床試験は 国立保健医療科学院「臨床研究ポータルサイト」 より検索した主な臨床試験(企業治験や多施設共同試験など)であり、全ての臨床試験を網羅しているものではありません。

4)その他の免疫療法について

免疫チェックポイント阻害剤は「免疫療法」に含まれ、免疫チェックポイント阻害剤以外の免疫療法についても研究がなされてきましたが、現在のところ科学的根拠をもって有効性や安全性が示されたものは少なく、多くは科学的根拠が明らかではありません。適応症や適応薬剤以外の投与は、臨床試験として行われることが勧められます。免疫療法についてはこちらをご参照ください。

>>免疫療法もっと詳しく知りたい方へ(国立がん研究センターがん情報サービス)