新型コロナウイルス感染症の拡がりにより、リンパ腫や白血病などの血液がん患者や家族の皆さまより、当法人宛に多くのお問合せをいただいております。「血液腫瘍患者さんのための新型コロナウイルス感染症対策」(2020年3月26日版)について、森勇一先生(佐久医療センター血液内科)にご執筆を依頼し、森先生より公開する許諾をいただきましたので公開いたします。森先生のご協力に、心より感謝申し上げます。


血液腫瘍患者さんのための新型コロナウイルス感染症対策(2020年3月26日版)
佐久医療センター血液内科 森勇一

使用上の注意
この文章は公的機関や関連学会から正式な指針が発表されるまでの暫定的なもので、筆者の私見が混じっています。正式な指針の発表後は、そちらの内容を優先してください。

■要点

  1. 血液腫瘍を抗がん剤・免疫抑制剤・副腎皮質ホルモンで治療中の方は、そうでない方よりも、新型コロナウイルス感染症に罹患した場合の悪化リスクは高いと考えられています。
  2. 新型コロナウイルス流行期間中に、上記薬剤を継続するか、減量中止するかは、ご自分だけで判断せず、主治医とご相談ください。
  3. 抗がん剤・免疫抑制剤・副腎皮質ホルモンを使用中の方で、風邪症状や37.5度以上の発熱が2日程度続く場合・強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合は、まず「帰国者・接触者相談センター」にご相談ください(明らかに他の病気が強く疑われる場合はかかりつけ医等に相談を)。

■解説

1. 血液腫瘍を抗がん剤・免疫抑制剤・副腎皮質ホルモンで治療中の方は、そうでない方よりも、新型コロナウイルス感染症に罹患した場合の悪化リスクは高いと考えられています。

中国の武漢で入院を要した患者さんたちの、2019年12月から2020年1月・2月までの統計で、がん患者さんは、そうでない患者さんよりも重症化する割合が高いことが示されています(英語論文)。
https://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045(20)30096-6/fulltext
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2762130

がん全体に占める血液腫瘍の割合は低いため、血液腫瘍に限定した検討はまだ行われていませんが、多くの専門家は、治療中の血液腫瘍は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクであると考えています(英語論説)。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/bjh.16620

この文章を書くにあたり、「血液腫瘍は他のがんより悪化リスクが高いのでしょうか」とのご質問をいただきましたが、新型コロナウイルス感染症はごく新しい疾患なので、まだ十分調べられておらず不明です。もっと多くの人数を長期に比較する必要があります。

このため、英国の血液研究慈善団体Bloodwiseの解説では、「積極的な治療中か否かにかかわらず血液腫瘍に罹患中」「最近3か月以内に化学療法を受けた」「6か月以内に移植を受けた」「移植後に免疫抑制療法を受けている」を高リスクとしたうえで、血液腫瘍の種類にかかわらず一律の情報提供を行う、としています(英語)。
https://bloodwise.org.uk/coronavirus/coronavirus-and-blood-cancer

2. 新型コロナウイルス流行期間中に、上記薬剤を継続するか、減量中止するかは、ご自分だけで判断せず、主治医とご相談ください。

血液腫瘍の治療による感染重症化リスクと、治療の減量中止による腫瘍悪化リスクは、慎重に天秤にかける必要があります。新型コロナウイルス感染症を恐れるあまり、元の血液腫瘍が悪化しては、元も子もありません。お一人お一人、病状も事情も違いますので、それぞれ主治医の先生にご相談いただくのが良いでしょう。

米国臨床腫瘍学会のサイトには一般的な指針が示されています。一言でまとめれば、個々の患者さんの病状によるという見解です(英語)。
https://www.asco.org/asco-coronavirus-information/care-individuals-cancer-during-covid-19

抗がん剤治療終了後、いつまで感染重症化リスクが続くかは、病状と治療の内容によります。上記のBloodwiseの解説が参考になりますが、正確を期すなら主治医の先生とご相談いただくのが良いでしょう。

日本臨床腫瘍学会は、「比較的近い過去(1~2年以内)がん治療経験された方は、免疫力が若干弱くなっている場合があり、新型コロナウイルスに感染や重症化のリスクがあることは否定できません。感染を防ぐことが極めて重要ですので、人混みを避け、手洗いやマスク着用など一般的な衛生管理をお願いします。」としています。
https://www.jsmo.or.jp/file/dl/newsj/2550.pdf

なお、喫煙は新型コロナウイルス感染症を重症化させることがわかっています(英語論文)。血液腫瘍の治療を行っている方も、すでに終了した方も、タバコはやめましょう。
https://journals.lww.com/cmj/Abstract/publishahead/Analysis_of_factors_associated_with_disease.99363.aspx

3. 抗がん剤・免疫抑制剤・副腎皮質ホルモンを使用中の方で、風邪症状や37.5度以上の発熱が2日程度続く場合・強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合は、まず「帰国者・接触者相談センター」にご相談ください(明らかに他の病気が強く疑われる場合はかかりつけ医等に相談を)。

新型コロナウイルス感染症の情報が最もわかりやすくまとまっているのは、首相官邸ウェブサイトの「新型コロナウイルス感染症に備えて ~一人ひとりができる対策を知っておこう~」 だと思います。ここを出発点にして、リンクをたどってゆくと良いでしょう。
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/coronavirus.html

厚生労働省も情報サイトを開設しています。微妙にマニアックです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

新型コロナウイルスに感染したりさせたりしないためには、人混みをさける・咳エチケット・こまめに石鹸で手洗いするのが重要です。このウイルスは咳などによる飛沫または接触で人から人に感染し、また、石鹸やアルコールで破壊されるからです。

感染者の8割は他の方に感染させず治癒すること、人と人の密な接触を避ければ伝播を減らせること、しかし急激に感染者が増えれば医療機関が対処しきれなくなることから、3月19日の専門家会議は、3つの「密」、すなわち「密閉」「密集」「密接」を避けるよう提言しました。 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610429.pdf

また、市中に潜伏していた感染が表に出てきていること、外国からのウイルス輸入が増えていることから、あらためて感染予防に努めるよう呼びかけています。 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610566.pdf

さらに、3月25日に東京都で感染者増加のため都知事より外出自粛要請が出されています。ご自身がお住いの自治体からの情報にご留意ください。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020032501047&g=soc

感染を疑う症状が出現した場合の対処は、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)がある方や、透析を受けている方と同様です。

軽い風邪症状で具合があまり悪くない場合は、外に出ず家に留まってください。

2日以上症状が続く場合、強いだるさや息苦しさが現れた場合は、まず、「帰国者・接触者相談センター」に電話してください。そうすれば、どの医療機関を受診するのが良いか手配してもらえますし、医療機関もご本人・他の患者さん・病院スタッフの感染予防に十分な準備をした上でお迎えすることができます。

また、電話の際には、ご自分が血液腫瘍の治療中である(または治療が終わったばかりであること)をお伝えください。

相談窓口は、下記をご参照ください。
https://www.kantei.go.jp/jp/pages/corona_news.html

ここで悩むのが、感染を疑う症状があったときに、まず主治医に相談するか、帰国者・接触者相談センターに相談するかです。このあたりは、血液内科医の間でも、もしかしたら相談窓口でも、統一が取れていないかもしれません。

とはいえ、今後は感染者数が増加し、感冒症状や発熱が実は新型コロナウイルス感染症である可能性が高くなってくると予測されます。つまり、まずは指定医療機関で新型コロナウイルス感染症かどうかを確認し、それらしくなければ主治医の先生に診療を引き継ぐほうが安全になってくるということです。

ですので、私は、帰国者・接触者相談センターにまず連絡する方が得策と考えます。

このあたりの流れは、3月17日発行の「新型コロナウイルス感染症診療の手引き・第1版」に記載されています(医師用)。
https://www.mhlw.go.jp/content/000609467.pdf

ご家族に新型コロナウイルス感染症疑いの方がいらっしゃる場合の注意点はこちら。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000601721.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00009.html

ウイルス流行時のマスクについての解説はこちら。
https://www.meti.go.jp/covid-19/mask.html

各国のマスクに関する考えを比較した論文も出版されています(英語論文)。
https://www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(20)30134-X/fulltext

マスクは他人に感染させないためのもので、自分を感染から守る効果は薄いという見解が主流です。(つまり、毎朝ドラッグストアに行列を作って大声で話をしながらマスクを買い占めに出かけるよりも、家でゆっくりお茶でも飲んでいる方が感染リスクは少ないということです。)

ウイルスに関する情報が混乱して、気持ちが落ち着かなかったり落ち込んだ時は、テレビやネットから一時的に距離を置くのも一案です。アメリカ心理学会「Keeping Your Distance to Stay Safe」の日本心理学会による日本語訳「もしも『距離を保つ』ことを求められたなら:あなた自身の安全のために」が参考になるかもしれません。
https://psych.or.jp/about/Keeping_Your_Distance_to_Stay_Safe_jp/

血液腫瘍患者さん向けのコロナウイルス対策は、今のところ関係学会からは発表されていませんが、一部の病院のサイトにがん患者さん向けの解説が掲載されています。

関東労災病院(←たぶん一番わかりやすい)
https://www.kantoh.johas.go.jp/tabid/710/Default.aspx

国立がんセンター東病院
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/safety_management/about/kansen/040/COVID-19.html

米国フレッド・ハッチンソンがんセンター(←英語ですが具体的で簡潔明瞭、ウェブ翻訳で読めます)
http://cinj.org/node/4123

新型コロナウイルス感染症は、無症状や軽い風邪症状で治癒する方が(おそらく)多い一方、重症肺炎になる方が一定数いらっしゃいます。この正確な比率がわかるのは数年後になるでしょう。私見ですが、重症化リスクが高いのは、寿命の終わりが近い方、普段はお元気だが血液腫瘍や他の持病で感染症に弱い方、新型コロナウイルスに弱いごく一部の体質の方です。これらの方々から、できるだけウイルスを遠ざける必要があります。

感染する方が爆発的に増えないようにすることで、重症になって入院する人数を医療機関が手厚く治療できる数に抑え続け、ワクチンが量産配備されるか、または人口の多くがウイルスに免疫を持つようになるまで守り切れれば、人類の「勝ち」です。困難な道のりですが、不可能ではないと私は考えています。